「トムが死んで、ジェリーが後を追う……」
SNSで流れてきたそのショート動画を見て、思わず涙が出そうになったり、ショックを受けたりしていませんか? 私も初めてそのストーリーを読んだ時は、鳥肌が立ちました。いつもドタバタと喧嘩している二人に、そんな静かで悲しい最期が訪れるなんて、と。
でも、安心してください。その感動的な「最終回」は、公式のエンディングではありません。
世界中のファンが「こうあってほしい」「こう終わるべきだ」と願った、愛ある二次創作(ファンフィクション)なのです。
この記事では、なぜその噂がこれほどまでに広まったのか、そして公式が用意した「本当の結末(=終わらないこと)」について、カートゥーン文化研究家の視点から愛を込めて解説します。読み終える頃には、あなたもきっと、都市伝説と公式設定の両方を、もっと好きになっているはずです。
この記事の著者
| ミケ (Mike) |
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| カートゥーン文化研究家 / アニメーション史ライター 1940-60年代のアメリカン・アニメーション史と都市伝説の起源を専門とするレトロカートゥーン愛好家。Webメディアでの「懐かしアニメの真実」連載や、アニメ映画のパンフレット寄稿など実績多数。「その都市伝説、泣けるよね。騙されたんじゃなくて、みんなトムジェリが大好きだから信じちゃったんだよ」と、ファンの感情を肯定しながら真実へ導くことをモットーに活動中。 |
ネットで話題の「トムが死ぬ最終回」…その感動的なあらすじと正体
まず、あなたがSNSで見かけたであろう「最終回」とは、このようなお話ではありませんでしたか?
トムは寿命を迎え、動かなくなってしまう。ジェリーはトムの死を受け入れられず、トムの死体のそばで待ち続ける。やがてジェリーも年老いて命尽き、天国へ行くと、そこには若き日の姿で待っているトムがいた。「また喧嘩しようぜ」と二人は追いかけっこを始める……。
このストーリー、本当に泣けますよね。長年のライバル関係が、実は深い愛情で結ばれていたという解釈は、ファンの心を強く打ちます。
しかし、この「トムの死」を描いたストーリーは、日本のファンがインターネット掲示板や同人小説として創作した二次創作であり、公式のアニメーション作品とは一切関係がありません。
この物語が生まれた背景には、「いつか来る別れ」を恐れるファンの心理があります。私たちは無意識のうちに、大好きなキャラクターたちに「美しい終わり」を用意することで、物語を永遠のものにしようとするのです。この都市伝説がこれほど拡散されたのは、それが単なるデマではなく、「トムとジェリーへの愛」が詰まった素晴らしい創作物だったからに他なりません。
なぜみんな信じた? 実在するトラウマ回『悲しい悲しい物語』との混同
では、なぜ多くの人がこの都市伝説を「公式だ」と信じ込んでしまったのでしょうか?
その最大の原因は、公式シリーズの中に、実際に自殺を示唆するような衝撃的なエピソードが存在するからです。
そのエピソードのタイトルは、第103話『悲しい悲しい物語(原題:Blue Cat Blues)』です。
この回では、トムが美しい白猫に恋をしますが、大金持ちのライバル猫に彼女を奪われてしまいます。全財産をはたいても愛を得られなかったトムは、絶望して線路の上に座り込みます。そして、同じく失恋したジェリーも隣に座り、二人が暗い顔で列車が来るのを待つ……というシーンで物語が終わるのです。
この『悲しい悲しい物語』のラストシーンは確かに衝撃的ですが、これは最終回ではありません。
以下のデータを見ていただければ、このエピソードがシリーズの途中に過ぎないことは一目瞭然です。
『悲しい悲しい物語』は最終回ではない!制作順リスト比較
| エピソード順 | タイトル(邦題) | 内容の結末 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 第103話 | 悲しい悲しい物語 (Blue Cat Blues) | トムとジェリーが線路に座り込む(自殺示唆) | ここが最終回だと誤解されがち |
| 第104話 | バーベキュー戦争 (Barbecue Brawl) | 庭でバーベキューをして喧嘩する | 次の回では元気に復活している |
| … | … | … | … |
| 第114話 | 赤ちゃんはいいな (Tot Watchers) | 赤ちゃんのお守りをして警察に連行される | ハンナ・バーベラ期の本当の最終制作話 |
このように、『悲しい悲しい物語』の後にも、トムとジェリーは何事もなかったかのように復活し、11本もの新作エピソードで元気に喧嘩をしています。
つまり、ネット上の動画は、都市伝説の感動的なテキストに、『悲しい悲しい物語』の暗い映像を組み合わせることで、あたかも「公式の最終回」であるかのように見せていたのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: SNSの「切り抜き動画」だけを見て、作品の結末を判断するのは避けましょう。
なぜなら、短い動画では前後の文脈が切り取られ、投稿者の解釈や字幕によって事実が歪められていることが多いからです。特に古いアニメーション作品は、現代の感覚とは異なるブラックジョーク(今回のような自殺オチなど)が含まれることがあり、それが都市伝説の信憑性を高める材料として使われがちです。気になったら、必ず公式の配信やデータベースで「続き」があるか確認することをお勧めします。
公式に「最終回」は存在しない! 80年以上続く「終わらない喧嘩」の歴史
「じゃあ、本当の最終回はどうなったの?」
そう思うのも無理はありません。しかし、結論をお伝えしましょう。
『トムとジェリー』に、物語を完結させるための「最終回」は存在しません。
これは、『サザエさん』や『ドラえもん』と同じだと考えてください。彼らは「スラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)」というジャンルの住人であり、「永遠に歳を取らず、どんなに酷い目に遭っても次の回ではケロッと治っている」というのが、この世界の絶対的なルールなのです。
実際、トムとジェリーの歴史は1940年から現在まで、制作会社や監督を変えながら80年以上も続いています。
制作会社が変わるタイミングで「その監督にとっての最後の作品」は作られましたが、それは「トムとジェリーの物語の終わり」ではありません。
公式が私たちに約束してくれているのは、「二人はこれからもずっと、仲良く喧嘩し続ける」という、終わりのない日常こそが、彼らにとってのハッピーエンドだという事実です。
よくある質問(FAQ)
最後に、トムとジェリーの結末に関して、私がよく受ける質問にお答えします。
Q. 『夢よもう一度』というタイトルが最終回だと聞いたことがありますが?
A. それも誤解です。『夢よもう一度(原題:City Dump Chump)』というエピソードは存在しません。おそらく、第42話『夢よもういちど(原題:Heavenly Puss)』との混同でしょう。この回ではトムが死んで天国に行く夢を見ますが、最後には目を覚まして「夢でよかった!」とジェリーを抱きしめます。つまり、やはりトムは死にません。
Q. 結局、トムとジェリーは仲良しなんですか?
A. 公式の見解としても、ファンの間でも「仲良く喧嘩しな」という歌詞の通りだとされています。殺し合いのような喧嘩をしますが、相手がいなくなると寂しがり、共通の敵が現れれば協力します。彼らは「敵」ではなく、かけがえのない「パートナー」なのです。
まとめ:都市伝説は「ファンの愛」、公式は「永遠の日常」
ネットで話題の「トムが死ぬ最終回」は、公式の設定ではありませんでした。
しかし、その物語にあなたが流した涙は、決して無駄なものではありません。それは、世界中のファンが「トムとジェリーには、最期まで一緒にいてほしい」と願った、愛の結晶だからです。
- 都市伝説: ファンが夢見た、美しくも悲しい「もしもの世界」。
- 公式設定: 永遠に終わらない、賑やかで楽しい「いつもの世界」。
どちらも素晴らしい物語です。でも、もしあなたが「悲しい結末じゃなくてよかった」とホッとしているなら、ぜひ最新の映画や配信で、彼らの元気な姿を見てあげてください。
そこでは今日も変わらず、トムがジェリーを追いかけ、ジェリーがトムをからかい、二人は最高に楽しそうに喧嘩をしているはずですから。
参考文献
- Tom and Jerry Wiki – Blue Cat Blues – Fandom
- Tom and Jerry filmography – Wikipedia
- Tom & Jerry’s Suicide Ending Explained – Screen Rant
