「こち亀の最終回、オチが2つあるって本当?」
ふとそう思い立って検索したあなたは、もしかすると子供の頃、毎週月曜日にジャンプを開くのが楽しみだった「かつての少年」かもしれません。
実は、あなたの記憶にある『こちら葛飾区亀有公園前派出所』には、週刊少年ジャンプ本誌とコミックス200巻で、全く異なる2つのエンディングが用意されていました。
これは作者の迷走ではありません。お祭りで盛り上がる「ジャンプ版」と、いつもの日常に戻る「コミックス版」。この2つの結末こそが、40年間休まず走り続けた両津勘吉と秋本治先生から、私たちファンへ贈られた粋なギフトだったのです。
本記事では、2つの最終回の詳細な違いと、そこに込められた「有給休暇」というメッセージについて解説します。これを読めば、あなたは本当の意味でこち亀を「卒業」し、いつでも帰れる心の「実家」として、両さんとの思い出を大切にできるはずです。
なぜ今、「こち亀の最後」が気になるのか?40年の重みと「卒業」
私たちが大人になり、日々の仕事や家庭に追われる中で、漫画雑誌からは少しずつ足が遠のいていきました。それでも、『こち亀』だけは「いつまでもそこにあるもの」として、心のどこかで安心感を抱いていたのではないでしょうか。
2016年9月、連載終了のニュースが流れた時、私はコンビニでジャンプを手に取りながら、言いようのない喪失感に襲われました。「両さんがいなくなるなら、僕の少年時代も本当に終わってしまうんだな」と。
しかし、多くの「元・ジャンプ少年」たちは、仕事の忙しさにかまけて、その最後の瞬間をリアルタイムで見届けることができなかったかもしれません。だからこそ今、ふとした瞬間に「そういえば、両さんはどうなったんだろう?」と気になり、検索せずにはいられなくなるのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: もしあなたが「最終回を見逃した」と後悔しているなら、今からでも遅くありません。ぜひコミックス200巻を手に取ってみてください。
なぜなら、こち亀の最終回は「さよなら」を言うためのものではなく、「またいつでも会えるよ」と確認するためのものだからです。私が実際に最終回を読んだ時、寂しさよりも「なんだ、いつも通りじゃないか」という安堵感に包まれました。その感覚を、あなたにも味わってほしいのです。
ジャンプ版とコミックス版。「2つのオチ」は計算されたギフトだった
なぜ、秋本治先生はわざわざ2つの異なるオチを描いたのでしょうか。それは、「雑誌」と「単行本」というメディアの役割の違いに合わせた、高度な演出意図があったと私は分析しています。
週刊少年ジャンプという媒体は、毎週の「お祭り(ハレ)」の場です。40周年のフィナーレとして、読者全員で盛り上がるイベント的な結末が必要でした。一方で、コミックス(単行本)は、読者の本棚に残り続ける「記録(ケ)」です。そこでは、終わることのない日常が描かれている必要がありました。
つまり、ジャンプ版で盛大に送り出し、コミックス版で「やっぱり戻ってくる」という構成にすることで、両津勘吉というキャラクターを永遠の存在にしたのです。
ネタバレ解説:星逃田の「ジャンプ版」と、部長に追われる「コミックス版」
では、具体的にどのような違いがあったのか、それぞれのあらすじを比較してみましょう。
ジャンプ版:星逃田が主役の「メタ的フィナーレ」
週刊少年ジャンプ掲載版では、最終回企画として「復活希望キャラベスト10」が開催されました。その1位に輝いたのは、ハードボイルド刑事・星逃田(ほしとうでん)でした。
星逃田は「自分を出せ」と暴れまわり、最終的には両さんを含むオールスターキャストが勢揃いします。そしてラストシーンでは、両さんが読者に向かって「ということで、これにて終了!」「これからもよろしく!」と挨拶をし、メタフィクション的な大団円で幕を閉じました。これはまさに、40周年を祝う式典のような終わり方です。
コミックス版:両さんが主役の「いつもの日常」
一方、コミックス200巻収録版では、復活希望キャラの1位が「両津勘吉」に変更されています。
自分自身が1位になったことに気を良くした両さんは、自分への祝賀会を画策します。しかし、いつものように欲をかいて失敗し、最後はヤケクソになって料理に唾を吐きかけ、「全部わしのものだ!」と独り占めしようとします。そして激怒した大原部長に武装して追いかけられ、派出所から逃げ出すシーンで終わります。
「ひどい」という評判の正体
ネット上では、このコミックス版の「食べ物に唾を吐く」という行為に対して、「ひどい」「最終回らしくない」という声も上がりました。しかし、これこそが「聖人君子にはなれない両さん」の真骨頂ではないでしょうか。
もし両さんが最後だけ改心して、涙ながらに感謝を述べたら、それはもう『こち亀』ではありません。最後まで欲深く、下品で、でも憎めない。そんな「変わらない両さん」を描き切ったことこそが、長年のファンに対する最大の誠意であり、安心感なのです。
📊 比較表
表タイトル: ジャンプ版とコミックス版の最終回比較
| 項目 | ジャンプ本誌版(2016年42号) | コミックス200巻版 |
|---|---|---|
| 復活キャラ1位 | 星逃田(ハードボイルド刑事) | 両津勘吉(主人公) |
| 展開 | 星逃田が暴れ、オールスターが集合するメタ的な展開。 | 両さんが祝賀会で欲をかき、自滅するいつもの展開。 |
| ラストシーン | キャラクター全員で読者に「これからもよろしく」と挨拶。 | 武装した部長に追われ、両さんが逃げ出す。 |
| 読後感 | 華やかな「卒業式」 | 明日も続く「日常」 |
| テーマ | 40周年のイベント(ハレ) | 永遠のループ(ケ) |
よくある質問:両さんは結婚した?アニメ版との違いは?
最後に、久しぶりにこち亀に触れる方が抱きがちな疑問についてお答えします。
Q. 結局、両さんは麗子や纏(まとい)と結婚したのですか?
A. 結婚していません。
最終回においても、両さんと秋本・カトリーヌ・麗子、あるいは擬宝珠纏(ぎぼし まとい)との恋愛関係に進展はありませんでした。これは『こち亀』が「変化しないこと」を美学とするギャグ漫画だからです。恋愛成就という「変化」を選ばず、同僚・友人としての心地よい距離感を維持したまま終わったことは、多くのファンにとって納得のいく結末でした。
Q. アニメの最終回と話が違う気がするのですが?
A. アニメ版とは全く別のストーリーです。
2004年に終了したテレビアニメ版の最終回では、両さんが本庁へ栄転すると勘違いし、派出所メンバーが送別会を開くという人情味あふれる「感動系」のストーリーが描かれました。
アニメ版は「泣けるこち亀」として人気がありましたが、原作の最終回はあくまで「笑えるこち亀」を貫いています。記憶が混同している方は、ぜひ原作のドライでパワフルなオチを楽しんでみてください。
まとめ:こち亀は終わっていない。ただ「有給休暇」に入っただけ
『こち亀』の連載終了に際して、秋本治先生は次のようなコメントを残しています。
「あの不真面目でいい加減な両さんが40年間休まず勤務したので、この辺で有給休暇を与え、休ませてあげようと思います。」
出典: 「こち亀」連載終了発表時の秋本治氏コメント – 集英社, 2016年
この言葉通り、こち亀は終わったのではありません。両さんは今、長い有給休暇を楽しんでいるだけなのです。
ジャンプ版で盛大なお祭りを楽しみ、コミックス版でいつもの日常に戻る。この2つのオチを知った今、あなたは本当の意味でこち亀を「卒業」できたのではないでしょうか。それは悲しい別れではなく、いつでも帰れる「実家」がそこにあるという確認です。
久しぶりに本棚の奥から、あるいは電子書籍で、200巻の最後のページを開いてみてください。そこには、40年前と変わらず、部長に追いかけられて元気に逃げ回る両さんの姿があるはずです。
参考文献
- 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』第200巻(集英社)
- 週刊少年ジャンプ 2016年42号(集英社)
- 秋本治氏の連載終了に関する公式コメント(集英社)
[著者情報]
神田 剛(かんだ つよし)
マンガ文化ライター / ジャンプ黄金期研究家
1980年代生まれ。小学生時代から『週刊少年ジャンプ』を愛読し、黄金期の作品群と共に青春を過ごす。特に『こち亀』は人生のバイブルであり、その社会風刺や先見性を研究テーマとしている。Webメディアでの連載「大人のためのジャンプ再読」やラジオ出演などを通じて、かつての少年たちに向けた漫画文化の再評価を発信中。
