「今夜は重めの赤ワインを開けたい。でも、冷蔵庫には鶏肉しかない…」
週末の夕方、そんなジレンマに陥ったことはありませんか? 一般的に「鶏肉=白ワイン」が定石とされています。確かに、淡白な鶏肉は繊細な白ワインと相性が良いですが、だからといって赤ワインを諦める必要は全くありません。
鶏肉は、調理法とソース次第で、カベルネ・ソーヴィニヨンのようなフルボディの赤ワインとも対等に渡り合える「濃厚なメインディッシュ」に化けるポテンシャルを秘めています。
鍵となるのは、フライパンに残った肉汁を活用する「デグラッセ」という技法と、ワインの色に合わせた「ソースの使い分け」です。
今日は、肉焼きマイスターの私が、スーパーの鶏もも肉を、赤・白どちらのワインも迎え撃てる極上の一皿に変える方法を伝授します。
この記事を書いた人
神田 剛
(肉焼きマイスター / ソムリエ)都内ビストロでシェフとして10年腕を振るった後、独立。「肉焼きは科学だ」を信条に、論理的な火入れ理論とワインペアリングを提唱する。特に、安価な肉を技術で高級な味に変える「一点突破」のレシピには定評があり、週末料理を楽しむ男性ファンが多い。
なぜ「鶏肉×赤ワイン」は難しいのか? 鍵は「メイラード反応」と「脂」にあり
かつて私も、ソムリエの資格を取りたての頃、教科書通りにペアリングをしようとして失敗した経験があります。
「肉なら赤だろう」と安易に考え、蒸した鶏むね肉に渋みの強いボルドーの赤ワインを合わせました。結果は惨敗。ワインの渋みが鶏肉の繊細な味を完全に消し去り、口の中には鉄のような苦味だけが残ってしまったのです。
なぜ失敗したのか? それは、赤ワインが求めている「脂」と「香ばしさ」が足りなかったからです。
赤ワインは「脂」で洗われる
エノテカなどの専門家も解説している通り、赤ワインに含まれる渋み成分「タンニン」には、口の中の脂質を洗い流す「ウォッシュ効果」があります。つまり、タンニンを受け止めるだけの「脂」が料理側にないと、渋みばかりが際立ってしまうのです。
だからこそ、赤ワインに合わせるなら、淡白な「むね肉」ではなく、脂の乗った「もも肉」を選ぶのが鉄則です。そして、ただ焼くのではなく、皮目を強火でパリッと焼いて「メイラード反応(香ばしい焦げ目)」をつけること。この焦げ目の苦味と脂の甘みが、赤ワインとの架け橋になります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 赤ワインに合わせるなら、皮を剥ぐのは厳禁です。皮こそが最強のソースになります。
なぜなら、皮と身の間にある皮下脂肪こそが、赤ワインの渋みを中和するクッションの役割を果たすからです。カロリーが気になる気持ちは分かりますが、この日だけは「皮は調味料」と割り切って、カリカリに焼き上げてください。
フライパンの汚れは旨味の塊! 5分でプロの味を作る「デグラッセ」の魔法
鶏肉を焼いた後、フライパンの底に茶色い焦げ付きが残りますよね? これを「汚れ」だと思って洗剤で洗っていませんか?
もしそうなら、あなたは料理の「一番美味しい部分」をドブに捨てているのと同じです!
この茶色い焦げ付きの正体は、肉汁とタンパク質が凝縮された旨味の結晶です。これをワインなどの液体で溶かし出し、ソースのベースにする技法を、フランス料理用語で「デグラッセ(Déglacer)」と呼びます。煮込み料理のように何時間もかけなくても、このデグラッセを使えば、たった5分でレストラン級の濃厚ソースが作れます。
旨味をこそげ落とす快感
手順はシンプルです。
- 肉を焼いて取り出す。
- そのままのフライパンにワイン(赤または白)を注ぐ。
- 木べらで底の焦げ付きをガリガリとこそげ落としながら煮詰める。
たったこれだけで、鶏肉の旨味がすべて溶け込んだ、複雑で奥行きのあるソースが完成します。
【実践編】今夜のワインで決める。鶏もも肉の「黒」と「白」のソテー
それでは、デグラッセの技術を使って、鶏もも肉を赤ワイン・白ワインそれぞれに最適化させる2つのソースをご紹介します。
ベースとなる鶏肉の焼き方は共通です。塩胡椒をしたもも肉を、皮目から入れて中火で押し付けながら焼き、皮がパリパリになったら裏返して火を通します。肉を取り出したら、いよいよソース作りの出番です。
1. 赤ワインで迎え撃つ「黒のバルサミコソース」
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなど、渋みのある赤ワインには、色が黒く、酸味とコクのあるソースを合わせます。
- 材料: 赤ワイン 大さじ3、バルサミコ酢 大さじ2、醤油 大さじ1、バター 10g
- 作り方:
- 肉を焼いたフライパン(脂は拭き取らない!)に赤ワインとバルサミコ酢を入れ、強火でデグラッセする。
- 半量になるまで煮詰めたら、醤油を加える。
- 火を止め、冷たいバターを加えて余熱で溶かしながら混ぜる(モンテ)。とろみがついたら肉にかける。
- ロジック: バルサミコの酸味が脂を切り、醤油のコクとバターの油分が赤ワインのボディを受け止めます。
2. 白ワインと寄り添う「白のレモンバターソース」
シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなど、酸味のある白ワインには、色が白く、爽やかでクリーミーなソースを合わせます。
- 材料: 白ワイン 大さじ3、レモン汁 小さじ1、粒マスタード 小さじ1、生クリーム(またはバター多め) 大さじ2
- 作り方:
- 肉を焼いたフライパン(脂が多すぎれば軽く拭く)に白ワインを入れ、デグラッセする。
- アルコールが飛んだら、粒マスタードとレモン汁を加える。
- 弱火にし、生クリーム(またはバター)を加えて少し煮詰める。
- ロジック: レモンの酸味が白ワインの酸と同調し、クリームやバターの乳脂肪分が樽熟成した白ワインのコクとマッチします。
ワインの色で選ぶ! 鶏もも肉のソース対決
| ソース名 | 味わいの特徴 | 合わせるワイン | ペアリングの鍵 |
|---|---|---|---|
| 黒のバルサミコ | コク・酸味・香ばしさ 醤油とバターの濃厚な味 | 赤ワイン (カベルネ、メルロー等) | 醤油のコクと焦げ目の苦味が赤ワインと同調 |
| 白のレモンバター | 爽やか・クリーミー レモンの酸と乳脂肪分 | 白ワイン (シャルドネ、辛口白) | レモンの酸味とクリームのコクが白ワインと同調 |
よくある質問 (FAQ)
最後に、鶏肉とワインのペアリングについて、よくある質問にお答えします。
Q1. むね肉しかありません。赤ワインは諦めるべきですか?
A. 諦める必要はありませんが、「脂」を足す工夫が必要です。
むね肉は脂が少ないため、そのままでは赤ワインに負けてしまいます。解決策は、ベーコンを巻いて焼くか、粉チーズをたっぷりかけた衣焼き(ピカタ)にすることです。ベーコンの燻製香やチーズの脂肪分が、赤ワインとの接着剤になってくれます。
Q2. ソースを作るのが面倒な時はどうすれば?
A. 「塩胡椒+スパイス」だけで乗り切りましょう。
デグラッセをする元気もない時は、スパイスに頼ります。白ワインなら「ハーブソルト(ローズマリーやタイム入り)」、赤ワインなら「黒胡椒」をこれでもかというくらい多めに振ってください。特に黒胡椒のスパイシーさは、シラーなどの赤ワインと驚くほど合います。
まとめ:鶏肉はキャンバス。ソースで「ワイン色」に染め上げろ
鶏肉は、牛肉のようにそれ単体で主役を張る強烈な個性はありません。しかし、だからこそどんな色にも染まることができる最高のキャンバスなのです。
- 赤ワインなら、皮を焼いて「脂」と「焦げ目」を作る。
- フライパンの旨味は「デグラッセ」でソースに回収する。
- 「黒いソース」は赤ワイン、「白いソース」は白ワインに合わせる。
この3つのルールさえ押さえれば、スーパーの特売鶏肉が、あなたの家のワインセラーにあるどんなワインとも最高のマリアージュを奏でます。
今夜は、あなたが飲みたいワインの色に合わせて、鶏肉を染め上げてみてください。フライパンから立ち上る香ばしい香りと共に、最高の週末が始まるはずです。
参考文献
- 鶏肉とワインのペアリング!部位や調理法で合わせるワインを変えよう – エノテカ
- * Chef Ropia – 料理の基礎技術 – YouTube
