「ブロッコリーは固めに茹でるのが正解」。そう思い込んでいませんか?
週末の金曜日、冷えた白ワインを用意して、冷蔵庫にあるブロッコリーを取り出す。「また塩茹でしてマヨネーズかな…」と、少し退屈に感じてしまう気持ち、よく分かります。
実は、ワインに合わせるなら「茹でる」のは卒業です。
イタリアのマンマに言わせると、ブロッコリーは「フォークで潰れるまで煮込む」のが一番美味しい食べ方。クタクタになったブロッコリーは、まるで濃厚なソースのようにパンやパスタに絡み、ワインが止まらなくなる最高のおつまみになります。
「でも、アンチョビなんて家にないし…」という方もご安心ください。冷蔵庫の奥に眠っている「イカの塩辛」を使えば、わざわざ買い出しに行かなくても、10分でリストランテの味を再現できます。
今夜は、ブロッコリーの常識を覆す、イタリア流の「くたくた煮」で乾杯しましょう。
この記事を書いた人
本田 陽子
(イタリア家庭料理研究家 / ソムリエ)イタリア・トスカーナ州で3年間の料理修行を経て、現在は自宅で料理教室「マンマの台所」を主宰。現地のマンマから学んだ「合理的で美味しい手抜き」レシピと、身近な食材で楽しめるワインペアリングを提案している。著書に『日本の食材で作るイタリアのマンマの味』がある。
なぜイタリア人はブロッコリーを茹でないのか? ワイン泥棒「ストラコット」の秘密
私がイタリアで修行を始めたばかりの頃、マンマにこっぴどく怒られたことがあります。
良かれと思ってブロッコリーを色鮮やかに、歯ごたえを残して茹で上げたところ、「なんてことするの! これじゃあ生煮えで味がしないじゃない!」と叱られたのです。
イタリアでは、ブロッコリーをクタクタになるまで煮込む料理を「ストラコット(Stracotto)」と呼びます。
「食感」を捨てて「旨味」を取る
私たち日本人は「野菜の食感」を大切にしますが、ワインに合わせる場合は「旨味の凝縮」が優先されます。
- 茹でる(日本流): お湯に旨味が逃げ出し、蕾(つぼみ)が水っぽくなるため、ワインの味を薄めてしまいます。
- 蒸し煮にする(イタリア流): 少量の水分とオリーブオイルで蒸し煮にすることで、ブロッコリーの水分を飛ばし、旨味をギュッと凝縮させます。さらに、崩れた蕾がオイルと乳化してトロトロになり、それ自体が濃厚なソースに変わります。
この「ソース化したブロッコリー」こそが、バゲットやパスタに絡みつき、ワインを進ませる最大の秘訣なのです。
アンチョビは買わなくていい! 冷蔵庫の「塩辛」が最強のイタリアン調味料になる理由
「くたくた煮」の味の決め手は、本場では「アンチョビ」を使います。でも、アンチョビって一度買うと使い切れずに冷蔵庫で干からびてしまったりしませんか?
そこで私が提案したいのが、「イカの塩辛」です。
「えっ、イタリアンに塩辛?」と驚かれるかもしれませんが、実はイカの塩辛とアンチョビは、料理科学的に見るとほぼ同じ役割を果たす食材なのです。
魚介×発酵×塩分の共通点
アンチョビは「カタクチイワシの塩漬け発酵食品」、塩辛は「イカの塩漬け発酵食品」です。どちらも、生のままでは独特の生臭さがありますが、油で加熱することで生臭さが消え、強烈な旨味爆弾に変わります。
- イノシン酸(魚介の旨味): 塩辛に含まれるイノシン酸は、ブロッコリーに含まれるグルタミン酸と合わせると「旨味の相乗効果」で美味しさが飛躍的にアップします。
- 熟成された塩気: 単なる塩味ではなく、発酵によって角が取れた複雑な塩気が、白ワインのミネラル感と完璧にマッチします。
わざわざ専用の食材を買わなくても、冷蔵庫にある「お父さんのおつまみ」が、最高のイタリアン調味料になるのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 塩辛を使うときは、ニンニクと一緒に「弱火でじっくり」炒めて溶かしてください。
なぜなら、この工程を飛ばすと生臭さが残ってしまうからです。油の中で塩辛がチリチリと音を立て、香ばしい香りが立ってくるまで加熱することで、魚介のクセが「コク」へと完全に変化します。姿が見えなくなるまで溶かすのがポイントですよ。
【実践編】レンジで時短10分! ブロッコリーと塩辛の「くたくたアーリオオーリオ」
本来、ブロッコリーをくたくたになるまで煮込むには20分ほどかかりますが、忙しい金曜の夜にそんな時間はかけられませんよね。
そこで、電子レンジを使って細胞壁をあらかじめ壊しておき、フライパンでの加熱時間を短縮する「時短テクニック」を使います。これならトータル10分で完成します。
材料(2人分)
- ブロッコリー:1株
- イカの塩辛:大さじ1〜2(お好みで)
- ニンニク:1片(みじん切り)
- 鷹の爪:1本
- オリーブオイル:大さじ3
- 水:50ml
作り方
- レンジで予備加熱: ブロッコリーは小房に分け、茎は厚めに皮を剥いて乱切りにする。耐熱ボウルに入れてふんわりラップをし、600Wのレンジで3分加熱する。(この時点で柔らかくなっていればOK)
- オイルベースを作る: フライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪、イカの塩辛を入れ、弱火にかける。塩辛が溶けて香ばしい香りがするまでじっくり炒める。
- 蒸し煮にする: レンチンしたブロッコリーと水を加え、蓋をして中火で5分ほど蒸し煮にする。
- 潰す: 水分が少なくなったら蓋を取り、木べらでブロッコリーをガシガシと潰しながら、オイルと乳化させるように混ぜ合わせる。全体がトロッとしたら完成。
いつもの「茹でブロッコリー」vs 今回の「くたくた煮」
| 項目 | いつもの「茹でブロッコリー」 | 今回の「くたくた煮」 |
|---|---|---|
| 調理法 | たっぷりのお湯で茹でる | レンジ + フライパン蒸し煮 |
| 食感 | コリコリ・シャキシャキ | トロトロ・ソース状 |
| 味の乗り | 表面にマヨネーズをつける | 中まで旨味が染み込んでいる |
| 合うワイン | 特になし(サラダ感覚) | 辛口白ワイン(ソーヴィニヨン・ブラン等) |
よくある質問 (FAQ)
最後に、くたくた煮を作る際によくいただく質問にお答えします。
Q1. 塩辛の臭みは残りませんか?
A. しっかり炒めれば、旨味だけが残ります!
ポイントは、ブロッコリーを入れる前に、オイルの中で塩辛を「揚げ焼き」のようにすることです。水分が飛んでチリチリになるまで加熱すれば、生臭さは完全に消え、アンチョビのような香ばしさだけが残ります。ワイン好きの夫も、言われるまで塩辛だとは気づきませんでした(笑)。
Q2. ブロッコリーの茎の部分はどうすればいいですか?
A. 茎こそ一番甘くて美味しい部分です。一緒に煮込んでください!
ブロッコリーの茎は、外側の硬い皮さえ厚めに剥いてしまえば、中はアスパラガスのように甘くて柔らかいんです。くたくた煮にすると、房の部分より甘みが強く出て、良いアクセントになります。捨てずに薄切りや乱切りにして、一緒にレンジにかけてくださいね。
まとめ:今夜は「くたくた煮」で、おうちリストランテを開店しよう
ブロッコリーは「食感」を楽しむ野菜だと思われがちですが、実は「旨味」を楽しむ野菜でもあります。
- 「茹でる」をやめて「蒸し煮」にするだけで、ワインに合う濃厚な味になる。
- アンチョビがなくても、冷蔵庫の「塩辛」で代用できる。
- レンジを使えば、煮込み時間はたったの5分。
この3つを知っていれば、スーパーで買った普通のブロッコリーが、週末の食卓を彩る主役級のおつまみに変わります。
「騙されたと思って、ブロッコリーを潰してみて!」
そう言いたくなるほどの背徳的な美味しさに、きっとあなたも、もう茹でたブロッコリーには戻れなくなるはずです。
今夜はバゲットと白ワインを用意して、素敵な「おうちリストランテ」を楽しんでくださいね。
参考文献
- ブロッコリーのくたくた煮のレシピ・つくり方 – キッコーマン
- アンチョビの代わりにもなるいか塩辛を使った絶品パスタ – TBSラジオ
