「今夜は肉じゃがだから、ビールでいいか」。そう諦めていませんか?
仕事から帰って、急いで夕食の支度をする平日。「ワインを飲みたいけれど、わざわざ洋食を作るのは面倒だし、和食に合わせると失敗しそう…」と躊躇してしまう気持ち、痛いほどよく分かります。
でも、実はそれ、すごくもったいないんです!
元ソムリエの私ですが、家では「肉じゃが」こそ赤ワインの最高の相棒だと思っています。献立を洋風に変える必要は一切ありません。いつもの和食に、仕上げの「黒胡椒」や「オリーブオイル」をちょい足しするだけ。たったこれだけで、醤油や味噌の風味がワインと驚くほどリンクし、いつもの食卓が「おうちバル」に変わります。
今日は、冷蔵庫にある食材と調味料だけでできる、魔法のペアリングルールをお教えしますね。
この記事を書いた人
和泉 佳代子
(ソムリエール / 和食ペアリング研究家)都内の和食店でソムリエとして勤務後、独立。「ワインは特別な日の飲み物ではなく、ご飯のお供」をテーマに、スーパーの食材でできるペアリング教室を主宰。著書に『味噌汁とワイン』がある。難しい理論よりも、忙しい主婦が実践できる「手抜きに見えない工夫」を提案するのが得意。
なぜ「お刺身に赤ワイン」は生臭くなるの? 失敗しないための唯一のルール
「和食にワインを合わせたら、なんだか鉄の味がして美味しくなかった…」。そんな経験はありませんか?
私自身、ソムリエになりたての頃に大きな失敗をしたことがあります。奮発して買った新鮮なマグロのお刺身に、張り切って重めの赤ワインを合わせたときのことです。口に入れた瞬間、魚の旨味どころか、生臭さと金属のような不快な味が広がり、せっかくの夕食が台無しになってしまいました。「私の味覚がおかしいのかな?」と落ち込みましたが、実はこれ、科学的に避けられない現象だったのです。
犯人はワインに含まれる「鉄分」でした
キリン(メルシャン)の研究によると、魚介類を食べた時に感じる生臭さの主な原因は、ワインに含まれる「鉄分」であることが解明されています。
ワインに含まれる鉄分が、魚介類に含まれる脂質(過酸化脂質)と口の中で反応すると、瞬時に生臭み成分が発生してしまいます。つまり、あなたの料理の腕やワインの選び方が悪いのではなく、「鉄分の多い赤ワイン」と「生の魚介」という組み合わせ自体が、化学反応で喧嘩をしてしまっていたのです。
ワイン中の鉄分が、魚介類の脂質の酸化を促進し、生臭みの成分であるヘプタジエナールなどの発生量を増加させることを突き止めました。
出典: ワインと魚介の組み合わせによる生臭み発生のメカニズムを解明 – キリンホールディングス, 2008年8月27日
逆に言えば、この「魚介×赤ワイン(鉄分)」の組み合わせさえ避ければ、和食とワインのペアリングで大きく失敗することはありません。まずはこのルールだけ覚えておいてくださいね。
醤油と味噌はワインの親戚! 「ちょい足し」で繋ぐマリアージュの魔法
「失敗しない方法は分かったけど、じゃあどうすれば美味しくなるの?」という疑問にお答えしましょう。
実は、日本の食卓に欠かせない「醤油」と「味噌」は、ワインと非常に相性が良い調味料です。なぜなら、醤油も味噌もワインも、すべて酵母の力で醸された「発酵食品」だからです。共通のルーツを持つもの同士は、本能的に惹かれ合います。
しかし、そのままでは少しだけピースが足りません。和食は洋食に比べて「油分」が少なく、味わいが淡白になりがちです。そこで活躍するのが、「オリーブオイル(油分)」と「スパイス(香り)」という2つの接着剤です。
和食とワインを繋ぐ「架け橋」の作り方
イメージしてみてください。淡白な和食と、コクのあるワイン。この二つの間に、油分と香りの橋を架けてあげるのです。
- オリーブオイル(油分): ワインのアルコール感やボディ(重さ)と、料理のボリューム感を釣り合わせます。
- 黒胡椒やハーブ(香り): ワインが持つスパイシーな香りや樽の香りと、醤油・味噌の香ばしさをリンクさせます。
この「ちょい足し」さえあれば、専用のレシピ本なんて必要ありません。いつものおかずが、そのままワインのアテに早変わりします。
【実践編】今夜の夕食がご馳走に。定番おかず×ワインの「正解」組み合わせ3選
それでは、具体的な「ちょい足し」テクニックを使って、今夜の夕食をワイン仕様に変えてみましょう。どれも、お皿に盛ってから食べる直前に足すだけでOKです。
1. 肉じゃが × 黒胡椒 = 赤ワイン(軽め)
日本の家庭料理の代表「肉じゃが」。甘辛い醤油味は、実は赤ワインの果実味とよく合います。
- ちょい足し: 食べる直前に、黒胡椒(ブラックペッパー)を多めにガリガリと挽いてください。
- 理由: 黒胡椒のスパイシーな香りが、醤油の甘さを引き締め、赤ワイン(ピノ・ノワールやマスカット・ベーリーAなど)のスパイス感と見事に調和します。七味唐辛子ではなく黒胡椒にするのがポイントです。
2. ブリの照り焼き × バター = 赤ワイン(ミディアム)
魚料理ですが、ブリのような脂の乗った魚と濃いタレなら赤ワインもいけます。
- ちょい足し: 焼き上がった熱々のブリに、バターをひとかけら乗せて溶かします。
- 理由: バターの乳脂肪分とコクが、赤ワインの渋みをまろやかに包み込みます。醤油とバターの相性は言わずもがな。まるでビストロの魚料理のような濃厚な味わいになります。
3. 冷奴・刺身 × オリーブオイル&塩 = 白ワイン(甲州)
「とりあえず冷奴」も、醤油ではなく食べ方を変えるだけで立派なワインのお供になります。
- ちょい足し: 醤油の代わりに、美味しい塩とEXオリーブオイルを回しかけます。お好みでレモンを絞っても。
- 理由: 豆腐の大豆の甘みや、白身魚の繊細な旨味が、オリーブオイルでコーティングされることで白ワインのフルーティーさと馴染みます。特に日本の「甲州ワイン」との相性は抜群です。
いつものおかず vs ワイン仕様の「ちょい足し」アレンジ
| 定番おかず | いつもの食べ方 | ワイン仕様の食べ方(ちょい足し) | 合うワイン |
|---|---|---|---|
| 肉じゃが | そのまま | 黒胡椒をたっぷり挽く | 赤(軽め) |
| ブリの照り焼き | そのまま | 仕上げにバターを乗せる | 赤(ミディアム) |
| 冷奴・刺身 | 醤油 | 塩 + オリーブオイル | 白(辛口) |
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 迷ったら、まずは「黒胡椒」を食卓に常備することから始めてみてください。
なぜなら、黒胡椒は「醤油」「味噌」「みりん」といった和の調味料すべてと相性が良く、振りかけるだけで料理の輪郭を洋風に近づけてくれる最強のアイテムだからです。私はバッグの中にマイ黒胡椒を忍ばせたいくらい愛用しています(笑)。
よくある質問 (FAQ)
最後に、和食とワインの組み合わせについて、よくいただく質問にお答えします。
Q1. わさびや生姜などの薬味はワインに合いますか?
A. 白ワインなら合いますが、赤ワインには注意が必要です。
わさびや生姜の清涼感ある辛味は、すっきりとした白ワイン(ソーヴィニヨン・ブランや甲州)によく合います。一方、赤ワインに合わせると、薬味の辛味が強調されすぎてワインの味が分からなくなってしまうことがあります。赤ワインに合わせるなら、薬味の代わりに「山椒」や「七味唐辛子」、そして先ほどご紹介した「黒胡椒」を使うのがおすすめです。
Q2. どんなワインを買えばいいか迷ってしまいます。
A. 迷ったら日本の「甲州(白)」か「マスカット・ベーリーA(赤)」が鉄板です。
和食に合わせるなら、やはり日本のワインが一番です。特に「甲州(こうしゅう)」というブドウから作られた白ワインは、鉄分が少なく、和食の繊細な出汁の味を邪魔しません。「マスカット・ベーリーA」の赤ワインは、醤油やみりんの甘辛い味付けに寄り添う優しい味わいが特徴です。スーパーでも1,000円台から手に入りますよ。
まとめ:今夜は「ちょい足し」で、おうち和食バルを開店しよう
和食とワインのペアリングは、決して難しいものではありません。
- 魚介と赤ワインの組み合わせ(鉄分)にだけ気をつける。
- 醤油・味噌はワインの「発酵」仲間だと知る。
- 仕上げの「黒胡椒」や「オリーブオイル」で、ワインとの架け橋を作る。
この3つのポイントさえ押さえれば、いつもの肉じゃがも、焼き魚も、冷奴も、すべてがワインに合うご馳走に変わります。
「献立はどうしよう…」と悩む必要はありません。まずは今夜、食卓に並んだそのおかずに、黒胡椒をガリガリッと振ってみてください。その一口が、あなたにとって新しい食の楽しみへの入り口になるはずです。
ぜひ、お気に入りのワインを開けて、素敵な「おうち和食バル」を楽しんでくださいね。
参考文献
- ワインと魚介の組み合わせによる生臭み発生のメカニズムを解明 – キリンホールディングス
- キッコーマン ホームクッキング – ワインに合う和食レシピ – キッコーマン
